お医者さんに聞いてみたい病気の疑問

現役の医者が日常診療の中でよく受ける質問を簡単にわかりやすく説明していきます。

朝礼で倒れてしまうのは貧血ですか?

厳密には脳貧血という状況であり、頭に血が届かない状況と考えてください。特に朝礼などで倒れてしまうようなものを神経調節性失神という病名の事が多いです。

どのタイミングで倒れてしまうか

 立ち上がった瞬間にクラクラしてしまったり、目の前が暗くなったり、視野が狭くなったりするようなものは、いわゆる「立ちくらみ」です。血圧調節障害もしくは起立性低血圧などと言います。
 しかし、朝礼で倒れてしまうのは立ち上がった瞬間ではありません。校長先生のつまらない話が佳境に差し掛かるころに倒れるのです。これは「立ちくらみ」ではありません。繰り返し起きる人はほとんどの場合、神経調節性失神と考えられます。

立ち上がった時に起きる体の変化

 寝ている状態では頭と心臓の位置関係(高さ)は同じレベルです。なので、重力がある地球上において心臓は普通の鼓動で頭まで血液を運ぶことができます。しかし、立ってみると頭は心臓より高い位置になりますので、何も反応をしなければ重力のせいで頭まで血液を持ち上げることは不可能です。では、頭まで血液を持ち上げるのにはどういう方法があるでしょうか?
 (1) 血管を収縮させて血管内の容積を小さくすることで頭まで血液を持ち上げる
 (2) 心臓がいつも以上に鼓動を強くして(過収縮)頭まで血液を持ち上げる
 実は(1)の反応が自然な反応であり、通常みなさんが無意識のうちに起こしている変化です。ところが、神経調節性失神の方は(1)ではなく(2)が起きてしまいます。この過収縮が失神へと向かう第一歩です。

立ち上がって15分前後で起きること

 延髄という、後頭部下の方にある場所から心臓に対して、なぜ過収縮をしているのか?という疑問が投げかけられるのです。心臓はなぜ過収縮をしているかを既に忘れていますので、過収縮をやめてしまします。すると、徐々に頭まで血液が到達できない状況が生まれ始め、フラフラしたり、脂汗がでたりしてきます。それでも立ったままでいようとするといよいよ脳貧血の状態となり、すなわち頭まで血液が到達せずに意識を失ってしまいます。

起きやすい状況

 過度の緊張状態、体温がうまく調節できない状況(厚着で満員電車の中)、お酒を飲んだ後、排尿後、排便後、腹痛時、脱水状態などが挙げられます。

検査方法

 頭位拳上試験というものがあります。強制的に80度程度まで起き上がるベッドに寝ていただき、一心拍ごとに血圧を測定できる器具を装着します。あとはベッドを強制的に80度まで起こし、20分程度待っているだけです。やっている方も非常に不思議な感覚になるのですが、神経調節性失神の方はこの方法で意識を失ってしまい、診断に至ることがあります。

治療について

 先ほど、過収縮が失神への第一歩ですと書きました。この過収縮を起こさせないようにする薬剤がいわゆる予防薬になります。しかし、この失神は若い方に多く、命にかかわることが少ないので、内服で治療することは少ないです。ではどうするかというと、この病状を理解していただき、前ぶれの段階でしゃがむ、もしくは寝てもらうことで失神を回避します。30分休んでいただければこの一連の悪循環は断ち切れますので30分は休むように指導します。

症状や病状は人によって様々です。
一般的な内容を書くように努力をしておりますが、特殊な病状の人には当てはまらないものもあります。
参考程度に留めて見ていただけると幸いです。